東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)51号 判決 1978年9月28日
原告
池上通信機株式会社
右代表者代表取締役
坂本克郎
右訴訟代理人弁護士
成富安信
同
青木俊文
右青木訴訟復代理人弁護士
高橋英一
被告
中央労働委員会
右代表者会長
平田冨太郎
右指定代理人
石川吉右衛門
(ほか四名)
参加人
総評全国一般労働組合神奈川地方本部
右代表者執行委員長
三瀬勝司
右訴訟代理人弁護士
庄司捷彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 原告を再審査申立人、参加人を再審査被申立人とする中労委昭和四九年(不再)第三九号事件につき、被告が昭和五一年二月一八日付でした別紙(略)(一)命令書(以下本件命令書という。)記載の命令のうち第二項部分を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文同旨
第二当事者の主張
(原告の請求原因)
一 参加人総評全国一般労働組合神奈川地方本部(以下単に参加人組合という。)は昭和四九年六月一一日神奈川県地方労働委員会(以下単に地労委という。)に対し、原告を被申立人として団体交渉拒否等に対する不当労働行為救済の申立(同委員会昭和四九年(不)第一二号)をなしたところ、同委員会は同年八月一六日付をもって別紙(二)命令書(以下初審命令書という。)のとおり救済命令(以下初審命令という。)を発し、その主文第一ないし第三項記載のとおり団体交渉拒否の禁止、賃上げ額についての仮払い拒否の禁止、誓約文の交付・掲示を命じた。
二 原告は右初審命令を不服として被告に対し同年九月二日再審査申立(被告委員会昭和四九年(不再)第三九号)をなしたが、被告は昭和五一年二月一八日付で再審査命令(以下本件命令という。)を発し、初審命令の主文第一、第二項を取消し、これにかかる参加人組合の救済申立を棄却したが、同第三項(誓約文の交付・掲示)を維持し、原告の再審査申立を棄却した(但し、参加人組合池上通信機藤沢分会長交代のため誓約文の名宛人氏名を変更した。)。この命令は同年三月一一日原告に交付された。
三 しかしながら被告がなした本件命令は事実認定及び判断に誤りがあるから、初審命令を維持した部分(主文第二項)の取消しを求める。
四 本件命令書引用にかかる初審命令書記載の事実の認否
(一) 初審命令書第1の1(当事者)について
1 (1)のうち参加人組合さん下の湘南地域支部池上通信機分会(以下単に分会という。)が昭和四八年一一月一二日公然化したことは認め、その余は不知。
2 (2)は認める。
(二) 同2(本件発生までの労使関係)について
1 (1)のうち、原告が組合員名簿の提出がなければ団体交渉に応じないとの態度を固執したとの点は否認し、その余は認める。原告が分会の要求に基づき昭和四八年年末一時金(以下単に年末一時金という。)の支給額を検討するため組合員名簿の提出を求めたところ、分会はこれを拒否した。原告は分会組合員数が判らなければ責任ある回答をすることができないから団体交渉を拒否したのであって何ら非難されるべき点はない。
2 (2)は認める。
(三) 同3(昭和四九年度賃上げ要求書提出と団体交渉の申し入れ)について
1 (1)のうち、同要求書提出の際分会が笹川総務課長補佐(以下単に笹川課長補佐という。)に対して口頭で団体交渉を申し入れたとの点は否認し、その余は認める。
2 (2)は認める。
(四) 同4(要求書提出後の経過)について
1 (1)は認める。
2 (2)のうち、分会から抗議文が提出されたことは認め、その余は否認する。
3 (3)は認める。但し、同項にいう団体交渉には昭和四九年四月からの賃上げ要求についての団体交渉は含まれていない。
4 (4)のうち、原告が池上通信機労働組合(以下単に池上労組という。)に示したのと同額の賃金回答書を分会に提示したことは認め、その余は否認する。原告が分会役員らに回答書を手渡した後、吉岡分会長(以下単に分会長という。)らは神奈川県地方労働委員会の審問に出席するため直ちに事務所を立ち去ったから、原告の回答についての質問や団体交渉の要請が行なわれたことはない。
5 (5)は認める。但し、同項にいう団体交渉には春闘要求についての団体交渉は含まれていなかった。
6 (6)のうち、原告が池上労組に示した最終回答と同額の回答を分会に提示したことは認め、その余は否認する。笹川課長補佐は分会の藤田副分会長に回答書を手渡した。分会長は当日有給休暇をとって休んでいたから団体交渉を申し入れるはずがない。
7 (7)のうち、分会が団体交渉が開かれていないので原告の回答を受け入れられないとしたとの点は不知。その余は認める。
8 (8)は認める。
9 (9)は認める。但し、本件命令書記載のとおりその後分会との間で団体交渉が行なわれ、賃金改訂も終了した。
五 本件命令書理由第1、2記載事実の認否
認める。
六 原告の主張
被告は参加人組合及び分会が昭和四九年三月一日に賃上げその他につき春闘要求書を提出した際及びその後の職場集会等の都度、分会役員らが笹川課長補佐に右春闘要求についての団体交渉を要求した旨認定したが、これは事実の認定を誤ったものである。
分会は昭和四八年一一月に公然化した後、年末一時金の要求と共にその団体交渉の申し入れをしたが、組合員名簿を提出しないので原告がこれを拒否したところ、参加人組合は不当労働行為であるとして地労委に救済の申立(同委員会昭和四八年(不)第一一号事件)をなし、同委員会は昭和四九年一月三一日救済命令(以下別件救済命令という。)を発した。原告は同命令を不服として被告に再審査の申立をしたが、参加人組合は同命令を根拠に原告に対して年末一時金についての団体交渉を求め、数度にわたり集会を開いた。
このように、参加人組合には年末一時金について団体交渉を開催させることしか念頭になかったので、春闘要求書を提出したもののその点についての団体交渉の申し入れは失念してしまったのである。このことは参加人組合が本件以前の団体交渉の申し入れはその重要性に鑑みすべて文書でなしているのに本件については何ら文書をもって申し入れしなかったこと、及び次に述べる三月一日以降の事実経過に照らして明らかである。
三月一日当時笹川課長補佐は原告と組合及び分会間の話し合いの窓口とはなっていなかった。同補佐が窓口となったのは同月七日からであり、春闘要求書を受領したのは三觜工場長(以下単に工場長という。)である。また要求書提出の際分会がなしたのは「工場長が会議中であるといって面会を断るのは労働組合法違反である。」という無体な抗議にすぎないし、分会は春闘要求についての回答期限を同月一八日としていたからそれ以前に団体交渉の申し入れをすること自体あり得ないところである。
同月二、三日は休日であった。
同月四日分会が昼休みに原告の許可なく会社施設(中庭)を使用して集会を開いたため、工場長が門外へ出るよう指示したところ、手が分会長に触れたことからトラブルになったことがあったが、春闘要求についての団体交渉の話はなかった。
同月五日は分会が前日と同様無許可の集会を開いたため村上工場次長が直ちに中止するよう警告したところ、分会員らが年末一時金について団体交渉を開くよう要求したので押し問答となったにすぎない。
同月六日は昼休みに分会員らが河野総務課長をとり囲み女子職員の勤務時間について抗議したことがあったが、団体交渉の件は話に出なかったし、分会員らが笹川課長補佐の所に来たこともない。
同月七日は分会の集会もなく分会員が事務所に来たこともなかった。
同月八日は分会の集会後分会長が笹川課長補佐に工場長との面会を求めてきたので、来客中であることを理由に断ったのに同分会長はこれを無視して工場長室へ出向いたが、来客を見てそのまま帰ってしまった。
同月九日は分会の集会もなく、同月一〇日は休日であった。
同月一一日分会長ら四名が工場長に面会を求めてきたが、工場長が部長二名と会談中であることを理由にこれを断ったところ分会長らはそのまま帰った。
同月一八日及び五月九日原告が分会に対し賃金改訂回答書を交付した際の組合側関係者の言動は、前記四(四)4及び6に述べたとおりであって、いずれのときも春闘要求についての団体交渉の申し入れはなされていない。
しかるに、本件命令は、参加人組合から原告に対し春闘要求につき団体交渉の申し入れがあったとの経験則に反した誤った事実認定のもとに原告につき不当労働行為の成立を認め、誓約文の交付及び掲示を命じた初審命令を維持したのであるから、違法なものとして取消されるべきである。
(請求原因に対する被告の答弁)
一 請求原因一、二について
認める。
二 同三について
争う。
被告が本件命令において不当労働行為を認定し、初審命令の判断を相当であるとした理由は別紙本件命令書記載のとおりであり、被告は別紙本件命令書記載のとおり事実上及び法律上の主張をする。これによれば本件命令は適法である。
三 同四について
(二)の1の後段の事実中分会が組合員名簿の提出を拒否したことは認めその余は争う。
(四)の3ないし6の各後段の事実は争う。
四 同六について
争う。
(請求原因に対する参加人の答弁)
一 請求原因一ないし四、六について
被告の答弁と同旨。
参加人は二に追加主張するほか別紙本件命令書記載のとおり事実上及び法律上の主張をする。これによれば本件命令は適法である。
二 参加人の主張
分会は昭和四九年三月一日原告に対して春闘要求書を提出し、その際原告の窓口役であった笹川課長補佐に団体交渉を申し入れた。しかるに、原告はその後分会とは一回の団体交渉も開かず、一方企業内組合である池上労組とは数回にわたって団体交渉をした。分会は要求書提出後要求貫徹をめざし、原告の団交拒否に抗議して連日事務所前で集会を開き、その都度分会長らが工場長、笹川課長補佐に面会を求め、団体交渉の開催を申し入れ、同月一二日には抗議文を提出した。ところが原告は分会が要求した年末一時金要求、春闘要求に何らの回答を示さず団交拒否の態度をとり続けたために参加人組合は四月五日、五月一日抗議のためのストライキをしたのであって右ストライキ通告書には団体交渉の拒否に抗議する旨明記されている。
原告は同月一八日、五月九日、同月一五日には春闘要求に対する回答をしたが妥結に至らず、分会は妥結のためその後も団体交渉を申し入れ、更に同年七月一〇日には文書による申し入れをした。この申し入れに対して原告は同月二九日に日時、場所、出席人員等を指定したうえで、団体交渉に応ずる旨回答してきたが、その人員等条件は不当であった。しかるに、分会はこれを受入れたところ原告は一方的に中止を申し入れ、同年一二月一〇日に至るまで参加人組合所属従業員に対し改訂賃金額の支給をしなかった。以上の経過に鑑みれば原告は当初から団体交渉を開く意思がなくこれを拒否し、また賃金改訂を含む春闘要求の妥結を引き延ばしてきたことが明らかである。かかる原告の行為は労組法七条一号、二号、三号に該当する不当労働行為に該当するものというべきであるから、原告に対し右行為につき誓約文の交付及び掲示を命じた初審命令を維持した本件命令に違法はない。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 当事者
(一) 参加人組合さん下の湘南地域支部池上通信機分会が昭和四八年一一月一二日公然化されたことは当事者間に争いがない。
(二) 原告の規模、池上労組等に関する初審命令書第1、1、(2)の事実は当事者間に争いがない。
三 昭和四九年春闘以前の労使関係
当事者間に争いのない事実と(証拠略)を総合すれば、分会公然化後の年末一時金についての団体交渉要求の折衝経過について次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
原告の藤沢工場の従業員の一部により組織される分会は昭和四八年一一月一二日公然化と同時に原告に対して年末一時金等一四項目についての要求書を提出し、同時に、「団交申入書」をもって同月一六日を団体交渉日、申し入れについて諾否の回答期限を同月一五日午前一〇時までとして右要求項目について団体交渉を申し入れたが、同月一五日原告は分会に対して組合規約及び分会組合員名簿の提出を求め、その後分会が組合員名簿については提出を拒否したことについて組合員数が判明しないから要求についての十分な検討ができないとして団体交渉に応じないとの態度をとった。
そこで分会は原告の右のような態度を不当であるとして再三にわたって抗議の集会を開き、一方、参加人組合は原告の右団体交渉拒否につき同年一二月七日(初審命令書理由第1、2(1)に一一月二三日とあるのは、乙第一七号証と対比すると一二月七日の誤記と認められる。)地労委に対して不当労働行為救済の申立を行なったところ、同委員会は昭和四九年一月三一日「原告は参加人組合の申し入れる団体交渉について組合員名簿の未提出を理由としてこれを拒否してはならない。」旨の別件救済命令を発した。その後分会は原告に対して同年二月六日付で団体交渉の申し入れをしたが、原告は右救済命令を不服として被告に対して再審査の申立をして分会の団体交渉の申し入れに応じようとはしなかった。
参加人組合及び分会はその後も原告に対して前記年末一時金等の要求事項につき団体交渉を求め、原告の拒否の不当性を主張するビラを配布したりしたが、組合員名簿を提出しない限り団体交渉には応じないとする原告の方針は変らず、参加人組合及び分会と原告間の団体交渉応諾をめぐる問題は労働条件解決の前提問題として当事者間の最大の懸案事項となった。
四 春闘要求書提出とその後の経過
(一) 当事者間に争いのない事実と(証拠略)を総合すると次の事実が認められ、(証拠略)中この認定に反する部分は採用することができない。
1 前記三に述べたように年末一時金等の要求についての団体交渉が原告の拒否によって開かれないまま時日は経過し、昭和四九年の春闘の時期を迎えたが、参加人組合は同年四月からの賃上げについて分会組合員の声を集約し、藤沢工場従業員平均三万二、九九八円の賃上げのほか諸手当改正等の賃金改訂要求を含む一〇項目の要求(春闘要求)をすることとした。そして、参加人組合、同湘南地域支部及び分会は、三者名義で同年三月一日付をもって回答期限を同月一八日午後一時とする春闘要求書を提出し、その際分会長らは笹川課長補佐に対して春闘要求についても参加人組合との団体交渉に応ずるよう口頭で申し入れた(以下特にことわらない限り「参加人組合による原告に対する要求又は団体交渉の申し入れ」とは、右三者名義によるものを指すのである。)。原告では分会公然化以来三觜工場長、村上工場次長、河野総務課長、笹川同課長補佐が分会との応対に当たっていたが、同月七日以降は主として笹川課長補佐がその窓口をつとめるようになった。
2 その後同月四日分会は原告の地労委命令無視の態度に抗議するとして昼休みに事務所前で集会を開き、工場長らに対して口頭で団体交渉を開くよう要求したが、工場長らは工場外で集会をするよう退去を求め、その際、工場長が分会長の肩をこずいたとして当事者間で紛糾した。また同月五日には同様に集会を開いて村上工場次長らに対して団体交渉を開くよう要請したが、同次長らは構内では集会をやめるよう警告、注意するのみで団体交渉の件について明確な方針を示すことはなかった。
分会は同月六日版の「あらぐさ」において原告が中労委命令を守らず団体交渉を拒否するのは不当労働行為を重ねるものである旨主張、抗議した。また同月八日には集会の終了後分会長ら二、三名が笹川課長補佐を訪ずれて団体交渉の件で工場長に面会を求めて来客中であることを理由に断られ、同月一一日も同様に面会を求めて会議中であるとして断られたことがあった。
同月一二日分会は原告に対する抗議集会を開く一方、同日版「あらぐさ」において原告が地労委命令後何の回答も示さないばかりか新たに申し入れた団体交渉にすら何の回答も示さないことは不当労働行為であるとする抗議文を提出した。
同月一八日は春闘要求についての回答期限であったが、原告は分会に対して何の通知もしなかった。
3 四月五日参加人組合は昭和四八年一二月の分会公然化以来再三にわたって要求した団体交渉の開催に原告が応ぜず、地労委命令を無視し続けていること、昭和四九年春闘の際に組合旗を持ち去ったこと、年末一時金要求、春闘要求に対して何の回答も示さず分会無視の態度をとり続けていることなどにつき抗議するとして同日午後一二時四五分より午後五時一五分まで職場放棄をする旨の書面による通告をしてストライキを実施し、同年五月一日にも、同日まで一度も団体交渉を開こうとしないことを非難し直ちに団体交渉に応ずるよう抗議すると共に組合旗等の返還を要求して、ストライキをする旨の書面による通告をし、分会組合員一名が同日午前九時から終業時まで職場放棄をした。
4 同年四月一八日に至り原告は漸く同月一七日付で池上労組に提示したと同額の賃金改訂回答書を分会に交付し、同年五月九日には同様に池上労組に提示したと同額の最終回答書を交付し、同月一五日には前日に池上労組との間で賃金改訂について妥結したこともあって分会に対し同月九日の原告回答を受諾すれば辞令を交付し、四月分給与差額を追給する旨文書で申し入れた。そこで分会長らは右申し入れ書を受領するに際し、笹川課長補佐に対して口頭で、参加人組合の提出した賃金改訂等の春闘要求についても一回の団体交渉をも開かないで一方的に応諾を言われては困るので早期に団体交渉を開くよう要請し、更に参加人組合は同月一六日に文書で「一九七四年春期賃上げ交渉は昨年末闘争に引き続く今日迄団体交渉拒否及び引き延しによっていまだに貴社と組合との間で交渉がもたれていない。会社が五月一六日に支払ってきたベースアップを含む金員(四月分賃金差額)についてはこれを今春闘賃上げの内金として組合は受領する。」旨回答したところ、同月二三日原告は文書で分会に対し「昭和四九年三月一六日より適用されるベースアップ並びに諸手当の改訂については組合から会社回答を受諾する旨の意思表示がないので支給することはできない。また仮払い(内金として)をする意思もない。」旨四月分賃金差額の仮受領を拒否する回答をした。
5 その後参加人組合が地労委に対し原告を被申立人として本件について団体交渉拒否を理由とする不当労働行為救済の申立をしたところ、右救済手続において原告は、当初提出した答弁書により、参加人組合が三月一日に団体交渉の申し入れをしたことは認め、団体交渉に応じないのは参加人組合が組合員名簿の呈示によって組合員を明らかにしないため団体交渉事項について責任ある回答ができないからである旨答弁しながら、その後七月九日付準備書面において団体交渉を開いていないのは団体交渉の申し込みがなかったからである旨訂正した。また同月初旬に分会が笹川課長補佐に団体交渉の申し入れをしたところ、同補佐はただ工場長に会わせてくれとか団交を開いてくれということは抽象的すぎて上司に対し要望としてとおすことはできないから具体的な課題について団体交渉を要求するよう回答したので、参加人組合は同月一〇日付書面をもって原告に対し「三月一日の春闘要求書提出以来口頭にて団交申し入れをし、その後何回となく回答を求めてきたのに未だ回答をしないのは団交の拒否が明白であって、抗議すると共に改めて下記のとおり団交を申し入れる。」旨、日時、場所、交渉人員等を指定したうえ団体交渉の開催を要求した。更に参加人組合は別件救済命令に対する原告による再審査申立が同月一二日棄却されたのを受けて、同月一五日付文書をもって年末一時金要求、春闘要求及び昭和四九年夏期一時金要求について団体交渉を申し入れ、原告との間で交渉場所、交渉人員等について再三にわたり折衝した結果、一旦は原告が同年七月二九日に提示した「日時八月二日午後七時から二時間、場所観月(大田区所在の旅館)出席人員六名」とする条件で団体交渉を行うことが合意されたが、当日午後四時になり原告は理由を示すことなく交渉の日を八月一〇日に延期したい旨を通告したため結局八月二日には交渉は行なわれず、また、右延期通告も参加人組合が拒絶したため、同月一〇日にも交渉は行なわれなかった。参加人組合は当事者間の折衝のみでは団体交渉は開催し得ないと判断し、横浜地方裁判所に対して原告を被申立人とする団体交渉応諾の仮処分を申請し、同年八月一四日その旨の決定を得たところ、原告は異議を申立て、その訴訟中において同年一一月二八日団体交渉の実施に関する和解が成立し、同年一二月三日団体交渉が開かれ春闘要求について妥結し、同月一〇日賃金改訂分相当額の金員が分会組合員に支払われた。
(二) 原告と池上労組間の昭和四九年度賃上げをめぐる交渉経過等に関する初審命令第1、3、(2)、同4(1)の各事実は当事者間に争いがない。
五 不当労働行為の成否
(一) 本件命令は、初審命令が原告に対し(1)原告による春闘要求についての団体交渉拒否を不当労働行為と認定して、右団体交渉を拒否してはならないこと、(2)原告による改訂額による昭和四九年三月一六日以降の賃金の仮払い拒否を不当労働行為と認定して、参加人組合の仮払い請求を拒絶してはならないことを命じたほか、(3)右団体交渉を行なわなかったこと及び未妥結を理由に賃上げを実施しなかったことにつき不当労働行為であることを認め、今後同種行為をしない旨の誓約文の交付及び掲示を命じたが、原告申立による再審査段階において前記四、(一)、5に述べたように賃金改訂等の春闘要求につき団体交渉が行なわれて妥結し、改訂額による賃金を原告が支払ったため、初審命令中(1)及び(2)を取消してこれに関する救済申立を棄却したが、(3)については、原告がなお不当労働行為でないと主張していることを理由にこれを維持し(但し分会長交代による誓約文の宛先の氏名を変更した)、これに関する再審査申立を棄却した。従って、本件訴訟においては、原告が参加人組合の申し入れによる春闘要求についての団体交渉を拒否したこと及び右団体交渉未妥結を理由に参加人組合所属従業員に対し賃上げによる賃金改訂を実施しなかったこと(いずれもその前提として参加人組合が春闘要求について団体交渉申し入れをしたかどうかの検討も含めて)が不当労働行為を構成するか否か、構成するとしても右のように使用者の不当労働行為が解消し当該不当労働行為から生じた労使紛争が解決したにもかかわらず右不当労働行為につき前記のような誓約文の交付及び掲示を命じることが救済方法として相当であるか否かが検討されなければならない(前記初審命令(2)(同命令主文第二項)に関連し、原告が昭和四九年三月一六日以降の参加人組合による改訂額による賃金仮払い請求を拒否したとする点についても、その事実が認められ、かつこれが不当労働行為を構成するのであれば、本件命令適否判断の資料たり得るが、この点に関連すると思われる事実としては、記録によるも、参加人組合が前掲乙第九号証により原告から原告回答による同年四月分賃金差額を支給する旨通告を受けたのに対し、乙第一〇号証により右賃金差額を賃上げ内金として受領する旨を回答したことが認められるにとどまり、前記初審命令の前掲となるべき事実、即ち「参加人組合が原告に対し同年三月一六日以降の賃上げ額について仮払い請求を継続的に行なったこと」を認めるべき証拠はないのである(右乙第一〇号証も四月分賃金差額を内金として受領する旨の回答にすぎず、仮払い請求とは認めがたい。))。
(二) 原告が本件命令を違法とする主要な理由は、「参加人組合が春闘要求につき要求書を提出したまま団体交渉の申し入れを失念してこれをなさなかったため、団体交渉は行なわれなかった。従って、原告が団体交渉を拒否するということも、団体交渉を拒否したうえで賃金改訂回答の受諾を求めるということもあり得ない。右のように団体交渉も行なわれず、参加人組合も原告の回答を拒否する以上労使間に賃金改訂の合意は成立していないから、原告は参加人組合所属従業員に対し賃金改訂を実施する義務はない。従って原告につき不当労働行為は成立しない。」という趣旨にあると解せられる。
(三) なるほど、形式の整った文書によりこの点を明示した団体交渉申し入れは、本件初審の救済手続開始後に至りはじめてなされている。しかし、原告は、前記四、(一)、5に述べたように、当初初審手続において提出した答弁書では昭和四九年三月一日参加人組合から団体交渉の申し入れを受けたことを認めていたし、(証拠略)によれば、被告による再審査手続において証人として尋問された笹川課長補佐(分会長らとの折衝の窓口役)は口頭により交渉人員等の明示のない団体交渉の申し入れは受けていた旨証言していることが認められること、前記三に述べたとおり、団体交渉の開催は原告と参加人組合との間で分会公然化以来最大の争点にしてかつ懸案事項であったのであり、そのため、分会は、前記四、(一)、2に述べたとおり、連日の如く抗議集会を開き、参加人組合は、前記四、(一)、3に述べたとおり、前掲乙第一四、第一五号証により原告の団体交渉拒否に抗議しストライキを行なう旨を文書により通告してストライキを行ない、前記四、(一)、4に述べたとおり、前掲乙第一〇号証により原告の「春闘賃上げ交渉」についての団体交渉拒否を理由に原告の賃金改訂受諾要求(乙第九号証)を拒否し四月分差額賃金を内金として受領する旨通告するなどしたが、これに対し、原告は、その当時、本件において主張しているように、団体交渉の申し入れは受けていないという反論は全くなしておらず、特に、前掲乙第一〇号証の通告に対しては前掲乙第一一号証により文書をもって参加人の四月分差額賃金の内金払い要求についてはこれを行なう意思がない旨を回答していながら、団体交渉拒否の主張については全く触れていないことなどに照らせば、春闘要求につき参加人組合から団体交渉の申し入れがなかったという原告の主張はとうてい採用しがたく、むしろ、参加人組合は分会を通じ少なくとも前記四、(一)、2に述べた機会には春闘要求についても口頭で団体交渉を申し入れていたと認めるのが経験則に合致するものというべきであるし、後に述べるように、前掲第乙一四、第一五号証の参加人組合による各ストライキ通告書は春闘要求についての団体交渉申し入れをも兼ねているものと解せられるから、形式の具備はともかくとして、文書による団体交渉申し入れもなされていたと認めることができるのである。
もっとも、口頭でなされた前記四、(一)、2に述べた団体交渉申し入れには交渉事項として特に春闘要求という項目を明示的に掲げたものと認むべき証拠はないが、右申し入れは時期的には春闘要求書提出と同時又はそれ以後になされているし、組合による労働条件改善要求は原則として団体交渉により解決されるべきは労使間のいわば常識ともいうべきであるから、右申し入れにより、賃金改訂等を含む春闘要求が新たに交渉事項として含まれるに至ったものと認めて差支えなく、労使関係の一方の当事者として春闘要求を受けた原告がこの点を認識し得なかったものとはとうてい考えられないところである。
更に組合から原告に対する昭和四九年四月五日付ストライキ通告書である前掲乙第一四号証はその表題にもかかわらずその文脈上春闘要求についての団体交渉申し入れを兼ねているとみるべきであるし、同年五月一日付ストライキ通告書である前掲乙第一五号証も春闘要求なる明示的表現が欠落しているが、右通告が前記四、(一)に述べた経緯によりなされたことに照らせば、春闘要求をも含めすべての懸案事項についての団体交渉の申し入れを兼ねているものと認めることができる。そして、前同様労使関係の一方の当事者である原告が右のような再通告書の意味するところを理解し得なかったものとはとうてい考えられないところである。
右に述べたところによれば、原告は昭和四九年三月一日以降春闘要求につき参加人組合から団体交渉の申し入れを受けていたものと認められるから、これを受けなかったとする原告の主張は失当というほかないが、更に原告による団体交渉拒否及び賃金改訂の未実施の不当労働行為性につき検討を加える。
(四) 団体交渉拒否
1 参加人組合は同月一八日を回答期限として原告に対し春闘要求を提出しているが、同日までの期間は、参加人組合が自ら原告に対し原告が右要求に対する態度を決定するための考慮期間として設定したものと解せられるから、同日までの右要求に関する団体交渉の申し入れについては、参加人組合において考慮期間であるにもかかわらず団体交渉を求めなければならない特段の必要性を認むべき証拠のない本件においては、原告はこれに応ずべき義務を負わないものというべきである(もっとも、右考慮期間中の団体交渉申し入れが全く無意義であるのではなく、むしろ、参加人組合が原告に対し春闘要求についての団体交渉を望んでいることを知らしめることにおいて意義を認め得るのである)。
しかしながら、右考慮期間経過後になされた参加人組合による団体交渉申し入れについては、拒むべき正当な理由は見出し得ないから、これを拒んだ原告の行為は労組法七条二号の不当労働行為と認めざるを得ないが、なおこの点について更に時期をわかって考察する。
2 別件救済命令に対する原告の再審査請求が中労委により棄却された昭和四九年七月一二日以前についていえば、参加人組合による団体交渉の申し入れには前記のように交渉事項は特定されていると解せられるとはいえ、交渉日時・場所の指定を欠いており、また、その指定を相手方に委ねたものともみられないから、かかる申し入れを受けた相手方としては一体いつ・どこへ交渉のため出向けばよいのか不明であり、その意味では、右申し入れは、不完全なものといわざるを得ない。しかし、原告は分会公然化後春闘要求に限らず組合の申し入れた団体交渉に対しては、別件救済命令に対する原告の再審査請求が中労委により棄却されるまでは、ただの一度も応ずる態度を示したことがなく、その理由とするところは組合員名簿不提出にあったことは既に述べたとおりであるから(組合員名簿提出要求拒否は少なくとも団体交渉の開始自体を拒む正当な理由たり得ず、その後の交渉の進展度合により使用者として態度を決するため組合員氏名、人数を知る必要が生じた場合に、その名簿を求めれば足るものと解すべきである。)原告がこのような基本的態度を維持していたと認められる別件救済命令に対する再審査請求棄却までの時期についてみる限り、参加人組合が春闘要求の団体交渉申し入れにつき交渉日時・場所を指定するか又は原告にこれを委ねるかしたとしても、原告がこれを受入れたという事態はとうてい予想し得ないところである。このように、右時期までの参加人組合による春闘要求についての団体交渉申し入れには交渉日時・場所の指定を欠く不完全な点があったが、右不完全と原告による右申し入れ拒否との間に因果関係があるとは認めがたいから、この点が原告の不当労働行為の成否に消長をもたらすものではない。
因に本件のように、日時・場所の指定を欠く不完全な団体交渉申し入れを受けた使用者の対応方法としては、次の三つが考えられる。即ち、(1)正当な理由があって組合の求める事項につき団体交渉応諾自体を拒否し得るのであれば、これを拒否する。しかし、右のような正当な理由がない場合は、(2)団体交渉には応諾する旨を回答したうえで組合による日時・場所の指定を待つ態度を示せば足りる。この場合使用者として右の点につき組合に問合わせをすることは差支えないが、それは法律上の義務であるとまでは解せられない。蓋し、一般に他人に直接面接し何かを交渉することを申し入れる場合申し入れる側において、交渉事項の特定はもちろん、交渉の日時・場所を指定し又は相手方にその指定を求めることを明示するのは(場合によっては交渉者交渉人員を明示し)、社会常識上当然であって、団体交渉の申し入れもその例外ではなく、不完全な申し入れを補完すべき法律上の義務を相手方たる使用者に負わせることは相当と認めがたいからである。(3)事情によっては、日時・場所の指定がないことを理由に申し入れの諾否の態度を留保する旨を回答すればよい。しかるに、原告はそのいずれの対応をもしていないのであるから、団体交渉応諾拒否による労組法七条二号該当の不当労働行為の成立はやむを得ないところである。
3 別件救済命令の再審査申立棄却後についていえば前記四、(一)、5に述べたように原告も一旦は団体交渉に応じる姿勢を示し労使間に八月二日に団体交渉を行なうことが合意されていたのに、原告が当日に至り延期を申し出たのであるが、右延期についての正当な理由は見出し得ないから、原告は正当な理由なく団体交渉に応じなかったものといわざる得ない。もっとも(証拠略)によれば、原告の企画室部長で労務を担当していた前田哲男は本件の再審査手続において八月二日の団体交渉開催の合意を否定するものの如くであるが、(証拠略)の労使間の往復文書を日時を追って検討すれば右合意成立を肯認するのが相当というべきである。また、同人は前同日団体交渉を行ない得ない理由として組合側が一旦原告提案を断ったため会場と予定された観月旅館をキャンセルしたことと出席者中で都合の悪い者が出て来たことをあげているが、かかる理由が組合側に伝えられたことを認むべき証拠はないのであるし、同人自身観月旅館キャンセル後再び予約可能か否かにつき問合わせすらしていないことを認めているのであるから、右団体交渉拒否に正当な理由が存したか否か甚だ疑わしいというほかはない。従って、原告の団体交渉応諾拒否による不当労働行為は八月二日現在まで継続していたことは明らかであるということができる。
(五) 賃金改訂の未実施
一般に賃上げを求める賃金改訂の団体交渉が妥結しない以上使用者は当該組合所属の従業員に対し現行賃金をこえる額を支払うべき契約上の義務を負うものではないが、一企業内に二組合以上が併存する場合において、使用者が一方の組合とは団体交渉に応じて賃金改訂につき妥結し、当該組合所属従業員には改訂された賃金を支給し、他方の組合に対しては正当な理由なく賃金改訂の団体交渉に応ずることすら拒否し、賃金改訂につき未妥結の状態を継続させ当該組合所属の従業員に対し賃金改訂を実施することなく現行賃金しか支給しないことは、単に労組法七条二号に該当する団体交渉拒否による不当労働行為だけでなく両組合及び両組合所属の従業員を合理的な理由なく差別する同条三号、一号に該当する不当労働行為を構成するものと解すべきである。
既に前記四、(一)に述べたように、原告は、池上労組との間では昭和四九年五月一五日賃金改訂の団体交渉を妥結し、同労組所属従業員に対し同年四月分から改訂された賃金を支給しているにもかかわらず、参加人組合所属従業員に対しては、同組合の申し入れた団体交渉を正当な理由なく拒否していたため、同年一二月一〇日まで改訂された賃金の支給をしなかったのであるから、両組合及び両組合所属従業員を合理的理由なく差別したものといわざるを得ない。もっとも、その間前記四、(一)、4に述べたような経緯があり、この事実によれば、原告は参加人組合所属従業員に対しても池上労組との妥結額により同年四月から賃金改訂を実施する態度を示している如くみられるが、原告の右態度は、一方で正当な理由なく団体交渉を拒否しながら、他方で賃金改訂実施につき自らの回答受諾を条件とするものであり、参加人組合が団体交渉を拒絶されたままの状態を容認したうえで右回答を受諾するのでなければ、同組合所属従業員は改訂賃金の支給を受け得ないことになるのであるから、右のような形で原告が改訂賃金支給の態度を示したからといって、両組合及び両組合所属従業員間の差別が合理性を有するということにはならない。
六 誓約文の交付及び掲示命令の相当性
既に前記四、(一)、5において述べたように、原告は初審命令後原告との間で賃金改訂等の昭和四九年春闘要求につき、昭和四九年一一月二八日横浜地裁において成立した和解に基づき、同年一二月三日団体交渉を行ない同月一〇日妥結し、所属従業員に対し改訂された賃金の支給をしたのであったが、その間に参加人組合による同年三月一日の春闘要求書提出から九ケ月以上を経過しており、かかる長期にわたり団体交渉が行なわれず、また、従業員に対する賃上げによる賃金改訂も実施されないという不正常な労使関係を生むに至った原因には、何といっても、原告による団体交渉拒否にその発端があるものといわなくてはならない。
もっとも、原告は双方合意に達した同年八月二日の団体交渉を拒否した後同日に同月一〇日に団体交渉を行ないたい旨申し入れたが、参加人組合により労使間の合意に反するという理由で拒否されたものの、(証拠略)により、更に同月九日に日時同月一〇日午後七時より二時間、場所観月、原告側出席者六名(氏名明記)とする団体交渉の申し入れを行ない、その後(証拠略)によれば、和解成立に至るまで団体交渉が行なわれなかったのは交渉場所と交渉人員の点で労使が合意に達しなかったことによるものであること、原告は池上労組との間でも団体交渉の場所を観月、交渉人員を六名としたうえで交渉を行なっていたことから、参加人組合に対してもそれと同一条件を提示したことが認められるから、原告の参加人組合に対する団体交渉の場所、人員についての提示に特に差別的なものはみられず、初審命令後において団体交渉が行なわれなかった責任を原告にのみ負わせるのは相当ではないといい得るであろうし、別件救済命令の再審査申立棄却以前の参加人組合による昭和四九年春闘要求についての団体交渉の申し入れが前記五、(三)に述べたように、その方式において明確性を欠いた不完全なものであることは否定し得ないところであるから、参加人組合が自ら不明確不完全な申し入れをしながら、相手方である原告に対しいわゆる本件の如き誓約を内容とするポスト・ノーテスを救済として求めることは、労使間の信義に照らし全く問題がないとはいえない。しかしながら、そうであっても、右申入れを全く無視し何ら対応を示すことなく他組合の妥結結果の受諾のみを求めた原告の態度は参加人組合軽視といわれてもやむを得ないものがあり、少なくとも、不正常な前記九ケ月間の前半の空白の責任は原告にあるものといわざるを得ないのであるから、原告のかかる態度さえなければ紛争は短期間のうちに終息していたものと推測することは十分に可能なのである。
そして、本件の労使紛争の経緯にかんがみれば、正常にして健全な労使関係確立のためには、もとより参加人組合の反省と努力が必要なことは当然のことながら、何よりも先ず、今後同種の不当労働行為を反覆しないことが原告に対し強く期待されるのであり、そうであれば、たとい不当労働行為が終了しこれによる労使紛争が解決していたとしても、被告が原告に対し本件の如き誓約文の交付及び掲示を命じたことをもって、行政機関たる被告の有する裁量権の行使に著しい不当があったとまでは認めることはできない。
七 結論
以上のとおりであって、本件命令は適法である。そうすると原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 吉本徹也 裁判官 牧弘二)